ブショネ
ブションはフランス語でコルクを意味します。 ブショネとはコルクが原因でワインに不快臭を与えるワインの劣化現象です。 コルク製造の工程(栽培から保管にいたるまでの間)にコルクが要因菌も持つと言われています。コルクが原因でワインに不快臭が移ったワインをブショネと言います。この不快臭はトリ・クロロ・アニソールという成分で、ブショネワインは「畳にカビが生えた臭い」「濡れた段ボール」などとさまざまな表現がなされます。 ソムリエがお客様にワインをお出しする前にしばしばテイスティングするのは、ワインが劣化していないかどうかを利くためですが、その項目の1つに、もちろんブショネでない健全なワインかどうかも含まれています。 このトリ・クロロ・アニソールですが、どんなワインでも同じ臭いとなってワインに現れます。強いものはワインを開けた瞬間に嫌な感触を鼻に覚えます。薄いものは、香りでは気づきませんが口に入れてちょっとすると「あの風味」がやってきます。ワインの成分がいかほど変化しているかは分からないのですが、ブショネのワインは果実味が失われ、本来の姿を失います。果実味自体は変わってないのかもしれないです。もしかすると、あの臭いがワインと組み合わさると最早、こちらが美味しさを認知しようとしなくなっているのかもしれません。 そう考えると、味わいに果たす香りの役割は大きいですね。
在庫が少ないワインでも、高価なワインでもブショネを発見してしまったからにはお客様にはそのワインを出す訳にはいきません。 コルクを使ったワインの2%~5%がブショネに該当するという情報もあります。そのことが、昨今、急速にスクリューキャップのワインが増えた理由の1つでもあります。フランスのあるドメーヌの輸出部長から、「日本向けのワインをスクリューキャップにしようと思うけど、あなたはどう思いますか?」と質問されたこともありました。
と、流通しているワインがブショネである可能性あり!と知ると、少し好みでない味や香りに対面すると「これブショネじゃない?」と懐疑的にワインに付き合うことになります。 嫌いな香りや酸化臭とは異なった、常に決まった香りがブショネ臭です。何でもかんでも、ブショネを疑うとワインが美味しく飲めなくなるかもしれません(笑)。ご注意を。 前説が非常に長くなったこの「ブショネ」。聞くだけで嫌な印象しか与えないですよね。 しかし、昨晩「ブショネ」って素晴らしいかもと感じたのです。 ワインの表現は元来自由だと思うのです。 このブログの中で何度も同じ表現を使っていますが、私は「ワインとの出会いは人との出会いのようなもの」と考えています。出会った人について、どのように感じ、どのようにお付合いしても自由なようにワインの表現は飲み手の自由だと思うのです。 元来自由なワイン官能において、放っておくことのできない、この憎っくき「ブショネ」があったことで、私たちは真実を共有できるという大きなメリットを持つことができると感じたのです。 自由と言ってきたワインの表現ですが「このワインはブショネです」に限っては、ほとんどYES or NOしか答えはないのです。散りばめられた自由な個性と表現のかたまりであるワインにこれほどまで明確な答えを提示されたことで、「これブショネだよね」とブショネを共有した者同士の自由は、急速に(今度は)真実に成長して共有することになるのです。 ワインには一利もない現象が、こうして私たちの感性を結びつける。 そうだったんだ、そうだったんだ。 ワインの神様はどこまでも粋なんだ…。 昨晩のブショネワインに、ふとワインの神様とも繋がった思いがしました。 ない方がいいものはたくさん、たくさんあるけれど、それが「あることの意味」を真剣に考えよ!という流れ星がブショネ臭と一緒に脳裏に落ちていきました。明日もいい仕事ができそうです。